【解法の要点】
細菌性およびウイルス性食中毒は,毎年のように出題のある頻出事項である.各食中毒について,原因微生物の性状と,主な原因食品,潜伏期と主な臨床症状等を確認しておこう.
【解説】
×⑴ ウェルシュ菌は,偏性嫌気性芽胞菌であり,原因食品としては,カレーなどの加熱済み食品がある.なお,通性嫌気性芽胞菌には,セレウス菌などがある.
○⑵ 文章通り.黄色ブドウ球菌の毒素は,熱に対して抵抗性があるエンテロトキシンである.そのため,一度食品中に毒素が形成されると,加熱食品でも感染のリスクがある.
×⑶ サルモネラ菌による食中毒の潜伏期間は6~48時間である.原因食品としては,鶏卵や鶏肉およびその加工品などがある.
×⑷ ノロウイルスは,乾物であっても加熱せずに喫食されるものであれば感染の可能性がある.ちなみに,平成29(2017)年に,製造工程で二次的に汚染された刻みのりを利用した複数の給食施設においてノロウイルス集団食中毒が発生した.
×⑸ カンピロバクターは,肉類の生食から感染する場合が多い.なお,海産魚介類の生食から感染する場合が多いのは,腸炎ビブリオである.
正解 : (2)
【解法の要点】
代表的な細菌性食中毒に関する問題であり,過去にもよく出題されている.原因菌の菌学的性状,主な食中毒症状,食中毒予防法を理解しておこう.
【解説】
×⑴ サルモネラ菌は,感染侵入型の細菌であるため,そもそも毒素を産生しない.食品とともに摂取され腸管壁に侵入して増殖することによって,下痢,腹痛,嘔吐といった胃腸炎症状をもたらす.
×⑵ 黄色ブドウ球菌による食中毒はブドウ球菌が食品中で増殖して産生された毒素(エンテロトキシン)を摂取することによって発症するもので潜伏期間は数時間程度である.潜伏期間が2 ~ 7日であるのはカンピロバクターである.
×⑶ ウェルシュ菌は食品とともに摂取されると腸管内で下痢毒を産生し,水様性の下痢をもたらす.なお,細菌性食中毒で血便がみられるのは,腸管出血性大腸菌や赤痢菌,カンピロバクターによる食中毒である.
◯⑷ カンピロバクター腸炎はまれにギラン・バレー症候群を発症することがある.主な症状は下痢(水様便,血便,粘血便),発熱,嘔吐等で,潜伏期は2 ~ 7 日と長いことが特徴である.
×⑸ 腸管出血性大腸菌を含め大腸菌は加熱に弱く,通常の加熱調理温度(75℃で1分程度)で死滅する.100 ℃でも死滅しないのはエンテロトキシン(ブドウ球菌の産生する毒素),芽胞形成するボツリヌス菌,セレウス菌,ウェルシュ菌である.
正解 : (4)
【解法の要点】
主な微生物性食中毒原因物質のおおよその生態,原因物質の性状,予防法について理解しておく必要がある.
【解説】
×⑴ カンピロバクターはニワトリやブタの消化管内に存在する.解体時にこれらの肉類が汚染され,さらに他の食品や水を汚染し,不十分な加熱処理によ
り人に感染する.
×⑵ エルシニア・エンテロコリチカの発育温度領域は0 ~ 44 ℃と低温発育菌としての性質も持ち,理論的には0 ℃でも発育できる.冷凍下でも生残するため解凍後でも温度管理が不適切であると増殖する.主な原因食品は食肉(豚肉)や井戸水などである.熱には比較的弱く,十分加熱することで不活化させることができる.
×⑶ ブドウ球菌の毒素であるエンテロトキシンは耐熱性が強く,食品中の本毒素は通常の加熱調理温度では破壊されない.210 ℃以上・30分の加熱ではじめて失活する.
×⑷ ノロウイルスは低温殺菌法では容易には賦活化されず,不活化させるには食品の中心部温度が85 ~ 90 ℃で90秒以上の加熱が必要である.
〇⑸ 文章通り.E型肝炎ウイルスは,野生のイノシシやシカの肉,あるいはブタ肉を加熱不十分で喫食して感染することが知られている.また,ウイルスを保有した動物やヒトの糞口で汚染された水を口にすることでの感染も多い.
正解 : ⑸
【解法の要点】
微生物性食中毒については頻出である.主な病因微生物の発育性状などの特徴と原因食品との関連性は重要であり,これらのことを把握しておこう.
【解説】
×⑴ リステリア菌は,未殺菌牛乳に関連する加工調理食品が原因食品となる.プロセスチーズは,ナチュラルチーズを加熱し,さらに加工したものであるため,リステリア菌の原因食品になりにくい.
×⑵ サルモネラ属菌は,グラム陰性の通性嫌気性菌で,腸内細菌科に属する.なお,偏性嫌気性の細菌には,ボツリヌス菌などがある.
○⑶ 文章通り.黄色ブドウ球菌は耐塩性のグラム陽性球菌である.発育最高食塩濃度は10 ~ 15%である.
×⑷ ボツリヌス菌芽胞の耐熱性は強いが,毒素は80 ℃で30分の加熱で失活する.そのため,ボツリヌス菌の毒素による中毒は,通常の加熱調理で予防することができる.
×⑸ ノロウイルスは細胞内でのみ増殖する.汚染水域で養殖・生育した貝類の中腸腺内にノロウイルスが蓄積され,これらを生食することによって人は感染を受ける.
正解 : (3)
【解法の要点】
自然毒による食中毒の原因物質には,動物性と植物性がある.それぞれの自然毒に関する知識を確認しておこう.
【解説】
×⑴ 下痢性貝毒による中毒は,ムラサキイガイ,ホタテガイなどの中腸腺に蓄積された脂溶性の毒が原因であり,腹痛,下痢をもたらす.テトロドトキシンはフグなどに含まれる毒であり,神経障害などから呼吸麻痺をもたらす.
×⑵ シガテラ毒による食中毒は,毒魚の肝臓や筋肉に存在するシガテラと呼ばれる物質が原因となる.なお,リナマリンはキャッサバやライマメなどに含まれる青酸配糖体である.
×⑶ スイセンによる食中毒は,リコリン,タゼチンなどのアルカロイドが原因となる.スイセンの葉はニラ,根は小さなタマネギに似ており,喫食すると悪心,嘔吐や下痢,頭痛などを起こす.イボテン酸はイボテングタケなどのテングタケ科のキノコに含まれる興奮性のアミノ酸である.
×⑷ イヌサフランによる食中毒は,球根に含まれるアルカロイドのコルヒチンが原因となる.球根を誤食すると,嘔吐,下痢,皮膚知覚減退などを起こす.ソラニンはジャガイモの発芽部位,緑色色部に存在するアルカロイドであり,腹痛,めまいなどを起こす.
○⑸ 正しい組み合わせ.ツキヨタケはブナの枯れ木に生えるキノコで,イルジンS,イルジンM やネオイルジンを含み,嘔吐,下痢,腹痛をもたらす.
正解 : (5)