【解法の要点】
長期にわたる飲酒歴のある人が急に断酒もしくは減酒したときに生じる一連の症状をアルコール離脱症候群といい,特にせん妄を伴う場合をアルコール離脱せん妄,あるいは振戦せん妄という.
【解説】
✕(1) 病的酩酊とは,複雑酩酊に強い意識障害が伴ったものである.記憶障害もある.
◯(2) 断酒後数時間から出現する早期離脱症候群では,振戦,自律神経症状(頻脈,発汗過多,血圧上昇,悪心・嘔吐)などがみられ,重篤なケースではけいれん発作(ほとんどが強直間代発作)や一過性の幻覚がみられる.
✕(3) 複雑酩酊とは,飲酒中および飲酒後の興奮が著しく,強度でかつ長いものである.しばしば粗暴な攻撃行為または性的露出,性的加害行動がみられる.
◯(4) 断酒後数時間以内に生じてくる発汗,イラつき,不安,手指振戦,不眠などの症状に始まり,断酒2,3日後に振戦せん妄が生じる.
✕(5) Wernicke脳症は慢性のビタミンB1の欠乏によって起こる.①意識障害,②眼球運動障害,③失調性歩行を三主徴とする.
正解 : (2),(4)
【解法の要点】
Cotard症候群まで知っている受験生は少ないであろう.ここは正攻法でアルコール依存症に関係のあるものを除外していこう.
【解説】
✕(1) ペラグラ脳症は,ニコチン酸(ナイアシン)などの欠乏によるもので,アルコール依存症による低栄養状態などが原因となる.皮膚症状(露出部の紅斑,水疱,落屑),胃腸症状(下痢),それに加えて多彩な神経症状(錯乱・幻覚など)がみられる.
◯(2) Cotard(コタール)症候群は,主に初老期の重症のうつ病に伴う妄想で,臓器を含めた自身の存在の一切がなくなり,死ぬこともできないという否定妄想である.
✕(3) Wernicke(ウェルニッケ)脳症は,ビタミンB1(チアミン)の欠乏が原因だが,離脱期に出現し,せん妄,健忘,発熱,傾眠,眼筋麻痺,瞳孔障害,けいれん発作がみられ,急性に経過して予後不良である.間脳,中脳に小出血巣がみられる.アルコール依存症患者のビタミンB1欠乏は,偏食,過度の少食が原因である.
✕(4) Liepmann(リープマン)現象とは,アルコール離脱による振戦せん妄状態にある患者を閉眼させて眼球を圧迫すると,検者が暗示するものが見える現象をいう.
✕(5) Korsakoff(コルサコフ)症候群とは,記銘力障害,見当識障害,作話がみられる健忘症候群である.アルコール離脱後の振戦,せん妄の後に生じる.Korsakoff症候群は,ビタミンB1欠乏による脳障害が原因であり,Wernicke脳症の慢性期における病態である.
正解 : (2)
【解法の要点】
アルコールによる精神障害は毎年必出の項目であるので,アルコール依存症やアルコールの離脱症状についてよく覚えておこう.
【解説】
✕(1) 振戦せん妄は離脱期(後期)の症状である.
✕(2) Wernicke脳症はビタミンB1の欠乏によるものである.せん妄,痙攣発作などが起こり,ときに死に至る.ビタミンB12の欠乏は悪性貧血を引き起こす.
✕(3) 急性中毒はその名の通り,急激なアルコール摂取による.
◯(4) 集団療法は飲酒問題の認識,断酒の継続に極めて有効である.自助グループによる集団療法が行われている.
✕(5) アルコール摂取を続けると耐性が生じ,少量の酒では酔わなくなる.
正解 : (4)
【解法の要点】
せん妄とは,その程度が変動する意識混濁の状態に,感情,情動が活発に動き,幻覚や妄想などの精神症状を伴うものをいう.アルコール離脱期には,多くの場合にせん妄が出現する.国試必出事項なのでよく覚えておくこと.
【解説】
✕(1) アルコール離脱せん妄は意識混濁,幻覚,振戦,自律神経症状や重篤な場合には痙攣発作を起こし,生命への危険性が低いとはいえない.
✕(2) 羽ばたき振戦は手関節を背屈させて手指を伸展させると間欠的に脱力が生じ(陰性ミオクローヌス),羽ばたいているようにみえるものをいう.Wilson病,肝不全(肝性脳症),腎不全,呼吸不全(CO2ナルコーシス),尿毒症などでみられる.
✕(3) 抗酒薬は血中のアセトアルデヒドの分解を阻害することで飲酒による不快な症状を生じさせ,飲酒を嫌がるようにするアルコール依存症の治療薬である.離脱せん妄の治療にはならない.
◯(4) アルコール離脱症候群には,離脱数時間後から生じる早期離脱と,3日後頃より生じる後期離脱がある.アルコール離脱せん妄は後期離脱でみられる.
✕(5) アルコール離脱症状は飲酒中止後の体内のアルコール血中濃度の下降に伴い生じる.アルコール離脱せん妄は最終飲酒の72時間後頃より生じる.
正解 : (4)
【解法の要点】
アルコール依存症の集団精神療法では,自己の飲酒問題を認め,断酒の継続を行うことが治療上極めて有効である.自助グループ(当事者グループ)に,同じ問題や悩みを抱える者同士が集まり,自分の苦しみを訴えたり,仲間の体験談を聞いたりすることで問題を乗り越える力を養っていく.
【解説】
✕(1) 催眠療法は,暗示操作によって患者を特殊な意識状態に導き,その状態で教示を与えた後に覚醒させ,症状を改善させるものである.解離性障害の治療に用いられてきた.
◯(2) 集団療法とは,参加者同士の相互作用を利用し,各自の問題点を明らかにして治療を促進する方法である.アルコール依存症の断酒会もこれに含まれる.
✕(3) 自律訓練法は,シュルツにより開発されたもので,自己催眠により全身をリラックスさせ,心身のコントロールを行うものである.成人の心身症,不安神経症,強迫性障害に適応がある.
✕(4) 来談者中心療法とは,治療者が来談者(クライアント)を指示や助言などに従属させることなく,来談者の話を聞くことにより来談者自らが洞察を得るように導く療法である.神経症性障害に適応がある.
✕(5) 修正型電気けいれん療法は,うつ病による昏迷や強い自殺念慮があるときや,統合失調症の緊張病症候群に用いられることがある.重症の場合や,薬物療法で十分な効果が得られない場合などに特に適用となることが多い.
正解 : (2)