【解法の要点】
顔面神経麻痺が生じており,片麻痺とは反対側であることに着目する.脳神経の存在部位と障害部位による身体症状の特徴,頭部MRI画像の見方を整理しておこう.
【解説】
✕(1) 左放射線冠に高信号域が認められる.放線冠は錐体路の一部で大脳皮質からの運動線維が収束するため,この部位に梗塞が起こると対側の顔面を含む運動麻痺を生じる(顔面麻痺は生じないかもしれないがこの画像では判断できない).
✕(2) 左視床に高信号域が認められる.視床が障害されると,反対側の顔面を含む感覚障害や運動麻痺,疼痛(視床痛),眼球の内下方偏位などが生じる.
✕(3) 小脳虫部に高信号域が認められる.小脳虫部は体幹の運動の調節を担っており,障害されると体幹の運動失調を呈する.
◯(4) 左橋腹側に高信号域が認められる.橋には顔面神経を含むⅤ〜Ⅷの脳神経が存在しており,下部腹側の病巣では,病側の顔面神経麻痺,対側の片麻痺を生じる(Millard-Gubler症候群).
✕(5) 左延髄背外側に高信号域が認められる.延髄背外側の病巣では,Wallenberg症候群を来す.めまい,嘔吐,嚥下障害,眼振,Horner症候群,小脳性運動失調,同側顔面と対側の上下肢と体幹の解離性感覚障害が生じる.錐体路は障害されないため,運動麻痺は出現しない.
正解 : (4)
【解法の要点】
頭部造影MRIで左前頭葉に腫瘍を認める.前頭葉は,判断,思考,計画,企画,創造,注意,抑制,コミュニケーションなどの高次脳機能を司る.前頭葉が障害されると,遂行機能障害,脱抑制,自発性低下,運動維持困難,ワーキングメモリー低下,統合・判断能力低下,注意・集中力の低下,Broca失語がみられる.本問では,前頭葉が障害されたときにみられる症状以外のものを考える.
【解説】
✕(1) 優位半球の前頭葉後部の障害で発語,書字などの運動性失語(Broca失語)がみられる.本症例では前頭葉後部に脳浮腫が及んでいる.
◯(2) 拮抗失行とは,企図された一方の手の運動に対して反対側の手が本人の意思に反して妨害的に働き,運動が中断するか行為が完遂できない状態であり,頭頂葉の萎縮でみられる.
✕(3) 前頭葉の障害で,易怒性,無感情など情緒の障害がみられる.
✕(4) 前頭葉の障害で注意力が低下する.
✕(5) 前頭葉の障害で,計画を立てる,順序良く行うなどの作業手順ができない遂行機能障害がみられる.
正解 : (2)
【解法の要点】
運動麻痺がなく,歩くとよろける症状は,小脳出血を疑わせる所見である.脳血管障害の症状を理解するには脳の機能局在を知ることが欠かせない.
【解説】
◯(1) 小脳出血では嘔吐,めまい,起立・歩行困難が特徴的である.
✕(2) 側頭葉出血では感覚性失語(Wernicke失語)が有名だが,この画像では右側なので失語にはなりにくい.
✕(3) 視床出血では対側運動麻痺,感覚障害,眼球の内下方偏位(鼻先凝視),視床痛などがみられる.
✕(4) 被殻出血では対側運動麻痺,感覚障害,病側への共同偏視,優位半球障害時に運動性失語,劣位半球障害時に失行・失認を引き起こす.
✕(5) 頭頂葉出血では劣位半球障害時の半側空間無視,優位半球障害時のGerstmann症候群(左右失認,手指失認,失算,失書)が有名である.
正解 : (1)
【解法の要点】
CT画像を見て脳の出血部位を同定し,その部位が傷害されると出現しやすい症状を解答する.本症例は視床出血である.視床出血では,①視床痛,②運動失調,③視床手,④失語などがみられる.
【解説】
✕(1) 系列的な動作が順番通りにできないとは,遂行機能障害のことである.遂行機能障害は前頭葉の障害でみられる.
✕(2) 脳出血発症前のことが思い出せないとは,逆行性健忘のことである.視床出血では主に前向性健忘が認められる.
✕(3) 左からの刺激に反応しないとは,半側空間無視のことであり,右頭頂葉後方の障害で認められる.
◯(4) 本症例は右の視床出血であり,左側に視床症候群として全感覚障害が生じる.その結果,左手の感覚は脱失する.
✕(5) 人の顔が区別できないとは,相貌失認のことである.後頭葉から側頭葉の障害でみられる.
正解 : (4)
【解法の要点】
脳梗塞後の高次脳機能障害の問題である.本症例は左角回の梗塞により観念失行を生じている.観念失行とは,使い慣れているはずの道具の使用,日常の一連の動作を順序正しく行えないことである.
【解説】
◯(1) スプーンを握るが使い方がわからないという典型的な観念失行である.
✕(2) 視覚性失認とは見ている物体が何であるかわからない状態である.左後頭葉の視覚前野から側頭葉の側頭連合野にかけての腹側視覚路が障害されると生じる.
✕(3) 運動維持困難は,一つ一つの動作は可能であるがそれを継続することができない状態である.障害病巣は右前頭葉,右頭頂葉といわれているが,前頭葉,側頭葉,頭頂葉を含む中大脳動脈領域の病変に起こりやすい.
✕(4) 右上肢の運動麻痺では,食事動作に限らずあらゆる日常生活で不便を生じる.
✕(5) 右上肢の深部感覚障害では,位置覚や振動覚が障害される.
正解 : (1)