【解法の要点】
図に示されている歩行パターンから,長下肢装具装着下にて踏み出しが可能であり,骨盤挙上が可能である様子がわかる.脊髄損傷のレベルと残存能力,移動能力について整理しておこう.
【解説】
✕(1) Th1機能残存レベルでは,手指の巧緻運動までは保たれているが,歩行獲得は困難である.車椅子の駆動は可能であるため車椅子練習が中心となる.
✕(2) Th6機能残存レベルでは,下部体幹が不安定であるため,骨盤帯付長下肢装具を装着して歩行練習は可能であるが,実用的には車椅子移動となる.
◯(3) Th12機能残存レベルでは,骨盤帯挙上が可能であり,長下肢装具にて歩行練習が可能となる.実用的には車椅子移動が中心となる.
✕(4) L4機能残存レベルでは,膝伸展が可能であり,短下肢装具と両クラッチを用いて,生活の一部分での実用的な移動手段としての歩行能力が備わる.
✕(5) S1機能残存レベルでは,足関節の底背屈が可能であり,長距離の移動を除けば装具を装着せずに実用的な歩行が可能となる.
正解 : (3)
【解法の要点】
脊髄損傷には機能残存レベルで可能な動作が決まっているため,それぞれのレベルに合わせた動作訓練が必要である.頸髄に損傷を受けた場合,肋間筋麻痺や呼吸中枢障害などにより多少の差はあるが,必ず呼吸障害がみられる.呼吸運動に重要な横隔膜の支配は第3~5頸髄節で,第4頸髄節以上の損傷であれば自力での呼吸は困難となり,気管切開や人工呼吸器が必要となる.
【解説】
✕(1) 第4頸髄節機能残存レベル以上の損傷では,横隔膜麻痺が起こるため自発呼吸が困難となり,人工呼吸器管理が必要となる.
✕(2) プッシュアップ動作は,上腕三頭筋が働く第7頸髄節機能残存レベルから可能である.
◯(3) 自動車への移乗は,第7頸髄節機能残存レベルから可能である.
✕(4) 第10胸髄節機能残存レベルでは,骨盤および股関節の支持性が不十分であり,歩行には骨盤帯付長下肢装具が必要とされるが,実用性は低いためほとんど処方されていない.両長下肢装具を用いての歩行は,第2腰髄節機能残存レベルで可能となる.
✕(5) 第12胸髄節機能残存レベルでは,胸背筋,肋骨筋などが残存しているが,股関節周囲筋が弱いため,股継手付き長下肢装具を用いる.両短下肢装具を用いて歩行可能なのは,第3~4腰髄節機能残存レベル(大腿四頭筋)からである.
正解 : (3)
【解法の要点】
立位・歩行練習の目的を問われている.脊髄は損傷を受けると修復・再生することは少ないため,治療やリハビリテーションでは残存機能の維持と強化を目的とする.
【解説】
◯(1) 痙縮の減弱は,立位などのストレッチ効果により期待できる.
◯(2) 褥瘡は,同一姿勢を防ぐことで,皮膚・皮下組織などが長時間圧迫されるのを回避でき,組織での血行改善が期待できる.
✕(3) 異常疼痛は,脊髄損傷後の神経障害性疼痛として現れる.障害部位より遠位である下肢への刺激で疼痛コントロールすることは困難であり,治療には三環系抗うつ薬などが用いられる.
◯(4) 荷重骨への力学的な負荷により骨量の低下を防ぐ.
◯(5) 立位・歩行練習により消化管運動の促進を期待できる.
正解 : (3)
【解法の要点】
毎年頻出の,脊髄損傷の機能残存レベルと到達可能なADLについての問題である.提示されているADLがより具体的な動作になっている.
【解説】
✕(1) C4残存レベルでは,四肢の動きがないため,チン(顎)コントロールとなる.ジョイスティックによる電動車椅子操作はC5残存レベルから可能である.肩甲帯・上腕二頭筋の動きを利用して,前腕を動かし,ジョイスティックを変形させて手に引っ掛ける形で操作する.
✕(2) ズボンの着脱などで,工夫された更衣が自立して行えるのはC7残存レベルである.
◯(3) 自助具を用いての整容動作はC5残存レベルより可能である.
◯(4) 自動車への移乗はC7より可能である.
✕(5) 短下肢装具をつけての歩行ができるのはL3〜4(大腿四頭筋)残存レベルである.
正解 : (3),(4)
【解法の要点】
第5胸髄まで機能残存では,腹部の筋が麻痺しており,上肢の利用なしにバックサポートから腰背部を離すことや骨盤前傾による除圧は困難である.よって,車椅子座位での仙骨部の除圧が困難であることが推測できる.褥瘡は,座位では,仙骨部・坐骨部・尾骨部・足底に好発する.
【解説】
✕(1) 背臥位での好発部位である.
✕(2) 膝窩部に褥瘡は起こりにくい.
◯(3) 本症例の場合,長時間の座位では仙骨部に荷重がかかり,そこに褥瘡が発生しやすくなる.
✕(4) 上肢に麻痺はなく,荷重もかからないため座位では肘頭部に褥瘡は起こりにくい.背臥位で起こりやすい.
✕(5) 側臥位での好発部位である.
正解 : (3)
【解法の要点】
脊髄損傷者の完全麻痺では,知覚がないこと,麻痺域での体動は意図的に行わなければならないことから,褥瘡が非常に発症しやすい.予防の方法や時間などを覚えておきたい.
【解説】
◯(1) 30°側臥位は骨盤部の突出がなく,殿筋で体重を受けることができる褥瘡の予防体位の一つである.四肢の位置の工夫だけでは体位保持ができないため,クッションなどを活用して,体の一部分に荷重が集中しないようにする.
✕(2) 体位変換は,基本的に2時間を超えない範囲で行う.
✕(3) 円座は,患部周囲の圧迫(剪断力),患部への阻血,円座中心部での底着きなどのリスクが高く,適切でない.ドーナツ型をした空気室構造のゴム製のものやクッション・ファーで覆われたものなどがあるが,車椅子用クッション,褥瘡予防用マットほどには機能的な構造ではない.
✕(4) ベッドアップは,目的にもよるが30°以下にすることが望ましい.これ以上のベッドアップでは,上体の重みで体全体が下方へずり落ち,皮膚表面と皮下組織との間にずれ応力(剪断応力)が発生し,褥瘡発生の要因となる.
✕(5) 褥瘡の好発部位(骨突出部・突起部),すでに皮膚が発赤している部分へのマッサージは,皮膚および皮下組織がダメージを受けやすいので避けるべきである.
正解 : (1)