【解法の要点】
本症例は,手指の屈筋群だけでなく,手関節の屈筋群まで障害されており,正中神経麻痺高位型である.高位型では手関節の支持が不十分であるため,前腕にまで及ぶ装具が適応となる.また,深指屈筋および短母指屈筋,虫様筋は二重神経支配であり部位によって支配神経が異なることも覚えておく.
【解説】
✕1 短対立装具(Bennett型)は,正中神経麻痺低位型に適応がある.母指球筋の萎縮による母指の掌側外転や対立運動の低下に対し,第1・第2中手骨間を一定に保つ.
◯2 長対立装具(Rancho型)は,正中神経麻痺高位型に適応がある.高位型では,母指対立不能に加え,母指・示指の屈曲障害,前腕の回内障害が起こる.そのため,手関節を機能的な一定の肢位で固定し,母指を対立位に保持する.
◯3 手関節駆動型把持装具(RIC型)は,正中神経麻痺高位型やC6レベルまで残存の脊髄損傷に適応がある.手関節背屈運動により対立つまみを可能にする.
✕4 Thomas型装具は橈骨神経麻痺高位型に適応がある.手関節背屈・MP関節伸展・母指外転位に保持する.
✕5 ナックルベンダーは尺骨神経麻痺高位型に適応がある.MP関節を屈曲位に矯正する.
正解 : (2),(3)
【解法の要点】
装具は静的装具と動的装具に分けられる.動的装具は,動作軸や継手,ゴムやばねなどにより動作の補助や制動を行うための装具である.
【解説】
◯1 長対立装具は,母指を対立位に保持する静的装具である.正中神経麻痺高位型で,母指対立不能,母指・示指の屈曲障害を生じた際に用いる.
✕2 RIC型把持装具は,手関節背屈運動により対立つまみを可能にする動的装具である.熱可塑性プラスチック材でできており,前腕部と手指部をワイヤーケーブルでつなぎ手関節の動きを手指に伝える.C6の機能残存に適応となる.
◯3 カックアップ装具は,手関節を機能的肢位に保持する静的装具である.橈骨神経麻痺高位型で下垂手を生じた際に用いる.
✕4 Thomas型懸垂装具は,ピアノ線やゴムで手背屈位にし,把持動作を獲得させる動的装具である.橈骨神経麻痺高位型に適応がある
✕5 Oppenheimer型装具は,ピアノ線によるばね効果で手関節背屈位,MP伸展位にし,ゴムバンドにより母指外転位に保持する動的装具である.橈骨神経麻痺高位型に適応がある.
正解 : (1),(2)
【解法の要点】
写真では尺側偏位しており,母指のZ変形,示指から小指MP関節および中指から小指PIP関節の屈曲拘縮がみられる.本症例はSteinbrockerのステージⅣで,関節の破壊がすすんでおり,線維性あるいは骨性強直があると考えられる.機能障害度はクラス3で日常の自分の身の回りの世話はできているレベルであり,ADLを維持するための装具を選択する.
【解説】
✕1 ナックルベンダーはMP関節を屈曲位に矯正し,尺骨神経麻痺に用いられる.
✕2 Oppenheimer型装具は,手関節背屈位,MP伸展位,母指外転位に保持し,橈骨神経麻痺に用いる.
✕3 IP関節伸展補助指装具は,ボタン穴(ホール)変形の予防矯正に用いられる.本症例では,母指IPは過伸展しており伸展補助は不要である.中指~小指PIP関節の屈曲拘縮があるが,関節の破壊がすすんでおり,線維性あるいは骨性強直がある手関節では適応は少ない.
✕4 タウメル継手は関節可動域制限がある関節に利用される継手である.膝や肘などの関節拘縮の改善に利用されるが,関節の破壊がすすんでおり,線維性あるいは骨性強直がある手関節では適応はない.
◯5 PEライトは,ポリエチレンフォームという比較的あたりの柔らかく変形力のある弾性樹脂である.手関節軟性装具により手関節の痛みや変形,動揺を予防できる.ネオプレーン製などでも代用できる.
正解 : (5)
【解法の要点】
背側型コックアップ・スプリントは,手掌,前腕掌面がスプリント材で覆われておらず,装具自体が邪魔にならないものである.実習でスプリントを1回はつくったことがあるだろうから,思い出して解答する.
【解説】
✕1 紙の上に手掌側を接地してトレースする.フィッティングの際,前腕回内位(機能的肢位)で行うためである.
◯2 骨の突起物をそのままにしておくと,皮膚や皮下組織を傷つけてしまうので,尺骨茎状突起の位置をマーキングする.
✕3 背側型コックアップ・スプリントは,手指部分が開放されているので指尖をトレースする必要はない.
✕4 前腕の近位1/3の位置をマーキングする.前腕2/3長をマーキングするのは,肘屈曲運動を制限しないように,スプリント長を調整するためである.
✕5 前腕部は前腕幅よりも大きめに型紙を取る.
正解 : (2)
【解法の要点】
手根管症候群は,手根管領域,すなわち屈筋支帯の背側で正中神経が圧迫されることによって起こる絞扼性障害である.手関節を掌屈にすると,疼痛および正中神経支配域の知覚異常の増悪(Phalen test陽性)を認める.正中神経が圧迫されず,疼痛や知覚異常が起こりにくい肢位に手関節を固定できる装具を選択する.手関節背屈やPhalen testの肢位で症状が増悪することを覚えていれば解ける.
【解説】
◯1 手関節を中間位で固定し,安静保持を目的としたリストサポート装具であり,手根管症候群,手関節腱鞘炎,関節リウマチなどに適応がある.
✕2 機能的肢位保持のためのコックアップ・スプリントである.脳血管障害の拘縮予防などに適応がある.手関節を機能的肢位に保持しているが,本症では手指は固定する必要がない.
✕3 母指腱鞘炎などに使用される母指固定装具である.母指MPおよびCM関節を固定する.母指は橈側外転位に固定されている.手関節を固定していない.
✕4 母指CM関節症などに使用されている母指固定装具である.母指対立位を保持して固定する.手関節を固定していないため不適切である.
✕5 肘から手関節にかけての固定用装具である.前腕部の骨折に対して手術後に使用される.
正解 : (1)
【解法の要点】
C6B1は手関節の背屈は強いものの,円回内筋,橈側手根屈筋の機能は残存していない.手関節の支持は不十分なため,前腕にまで及ぶ装具が必要となる.
【解説】
◯1 Rancho型把持装具(手関節駆動式把持スプリント)である.手関節背屈によりピンチ動作を可能にする.C6レベルまで残存の脊髄損傷に対して用いる.
✕2 パネル型コックアップ装具である.橈骨神経麻痺で適応となる.
✕3 ナックルベンダーである.尺骨神経麻痺高位型で適応となる.MP関節屈曲を補助し,鷲手変形を防止する.
✕4 短対立装具である.正中神経麻痺低位型に適応となる.母指の掌側外転や対立運動の低下のため,第1,2中手骨間を一定に保つ.
✕5 虫様筋カフである.尺骨神経麻痺低位型で適応となる.指の基節骨の背側に装着し,MP関節の過伸展を防止する.
正解 : (1)