【解法の要点】
本症例を統合失調症と診断することは容易であろう.本問では他の疾患に典型的にみられる症状をみつけるのがよい.
【解説】
✕1 観念奔逸は,考えが次々と浮かび段々と考えがずれていくことをいう.双極性障害の躁状態でみられる.
◯2 「自分しか知らないはずのことを皆が知っている」と感じているところから,思考伝播(自分の考えが他人に筒抜けになる)の症状がある.
◯3 一人きりで誰かに応答している様子がみられるところから,対話性幻聴(幻聴と対話する形)の症状がある.
◯4 「変な味がする」と言い,母が作る食事を食べなくなったところから,被毒妄想(被害妄想)の症状がある.
◯5 家族が精神科の受診を勧めたが,本人は「自分はどこも悪くない」と言って頑なに拒んだところから,病識欠如がみられる.
正解 : (1)
【解法の要点】
統合失調症の患者の回復過程は,急性期(要安静期→亜急性期)→回復期(前期→後期)→維持期,と分けて考えるとよい.本設問は,入院から1ヵ月が経って幻聴と妄想が減弱している時期,すなわち亜急性期での最初の作業療法の役割を問うている.選択肢からは,もっとも負担の少ないものを選ぶのがよい.
【解説】
✕1,3 回復期後期(入院後6ヵ月から1年)における役割である.
◯2 亜急性期(入院1,2週間~1ヵ月以内)における役割である.
✕4 維持期における役割である.
✕5 身辺処理能力の回復は,心身の消耗状態から回復して疲労度の調整ができ,生活リズムが確立した後の課題である.次の段階である回復期前期の作業療法になる.
正解 : (2)
【解法の要点】
様々なプログラム名が挙げられているのでこれを機会に覚えるとよい.認知機能の改善のためのプログラムであるので「認知」に相当する英語があるものが正解かもしれない,と想像してもよいであろう.
【解説】
✕1 ACT(assertive community treatment:包括型地域生活支援プログラム)は,精神障害者への包括型地域生活支援プログラムを指し,精神科医,看護師,精神保健福祉士,作業療法士など多職種が医療チームをつくり,精神障害者が地域で生活できるように365日24時間体制で支援する仕組みであり,訪問が支援活動の中心である.✕2 Empowerment approachは,個人の潜在能力に気づき,置かれている状況に対しての対処能力を高めるようなアプローチをいう.
✕3 IPS(indivual placement and support:個別就労支援プログラム)は,就労支援専門員と医療関係者でチームをつくり精神障害者の就労を支援するものである.特徴は,症状の重さは問題にせず,本人の好みや意欲に基づき職を選択し,障害者雇用ではなく一般就労を目指すものである.
◯4 SCIT(social cognition and interaction training:社会認知と対人関係のトレーニング)は,統合失調症の患者の社会認知の障害の改善を治療ターゲットとする,対人関係改善のためのグループワークトレーニングを行う.
✕5 WRAP(wellness recovery action plan)は“元気回復行動プラン”とよばれ,重篤な精神科患者であっても元気になって回復(=リカバリー)できる方法があり,そのためのプランについて,自分や同じような悩みをもつ人の体験やアイデアについて語り合うものである.
正解 : (4)
【解法の要点】
治療中断のために症状が悪化した統合失調症慢性期の患者への治療介入を考える問題である.本例では,「多職種訪問支援チームが1年前から関わっており,訪問は受け入れてもらえている」ことから,本人の意向に沿いながら,この支援チームとの関わりを強化することがポイントとなる.
【解説】
✕1 服薬が必要なことは言うまでもないが,まずは本人の意向を十分に聴き,そのうえで服薬の必要性を本人と共有することが重要である.
✕2 幻聴,妄想が悪化した結果,両親を閉め出したので,現時点では本人には両親へ謝罪する意味がわからないであろう.両親へ謝罪しても症状の改善は期待できない.
✕3 引きこもりの独居生活に入ったが,直ちに入院が必要なほどの緊急性の高い状態ではない.まずは,多職種訪問支援チームが訪問頻度を増やすなどして,本人との関わりを強化することが必要である.
◯4 多職種訪問支援チームとの関係性は持続しており,本人の現在の困りごとを根気よく引き出して,解決策を一緒に考えていくことが必要である.
✕5 訪問頻度を減らして本人の助けの意思を待つのは,症状の悪化や治療の中断につながるおそれがあるので適切ではない.
正解 : (4)
【解法の要点】
外来作業療法が行われており,3週前から工場で働き始めているため,回復期後期と考えられる.統合失調症患者の行動特徴から考察すると,同時に複数の作業を頼まれたことにより,それらの段取りをうまく考えられず混乱していると考えられる.
【解説】
✕1 挨拶ができないということはない.
✕2 心気的な訴え(自分は重い病気にかかっていると思い込み,しきりにそのことを訴える)は特にない.
✕3 回復期後期には心身機能の回復はクリアされていると思われるため,体力がなく疲れやすいということはない.
✕4 作業への飽きやすさは集中力の低下が原因のことが多く,急性期に多い.
◯5 情報処理能力,遂行能力が低下しているため,複数の作業に優先順位をつけたり,並行処理を行ったりすることが苦手である.
正解 : (5)