【解法の要点】
運動学習は巧みな運動課題遂行能力を比較的永続する変化に導くような実践あるいは経験に関係する一連の過程である.運動技能学習の段階は,初期相(認知相)→中間相(連合相)→最終相(自動相)へと進んでいく.本文に示されている「歩行導入初期」は初期相(認知相)にあたる.何を行うかを理解し,技能獲得のための戦略を立てる時期である.セラピストは患者に対して,理想的なパフォーマンスを提示し,様々な手段を用いてより良い運動方法を試す必要がある.運動技能学習の段階を理解するとともに,全体法・部分法,集中法・分散法,学習の転移,フィードバックなど,運動学習に関連する知識を整理しておこう.
【解説】
◯(1) ハンドリングとは,運動者の動きを徒手的に誘導する援助技術のことであり,練習中に与えられる.ハンドリングによって理想的な運動を直接的に誘導でき,歩行に必要な情報を認知できる.
✕(2) 初期相は,認知段階として歩行を獲得するためにどのような運動が必要であるのか,どのようにしたらよいのかを知る時期である.休憩を入れずに練習する集中学習よりは,頻繁に休憩を入れる分散学習のほうが適切である.
◯(3) 一連の動作の中の一部分を繰り返す練習法を部分法という.部分法は,重要な部分を取り出して練習できるという利点があり,初期相においては,患者の理解を促すのに有効である.
✕(4) 後ろ歩きや横歩きは,歩行に正の転移をもたらす(歩行能力を促進する)が,初期相に行うのは難易度が高く時期尚早である.バリエーションの異なるトレーニングは自動化の段階である最終相に取り入れ,パフォーマンスの向上を図る.
✕(5) フィードバックは,学習段階の進行とともに徐々に減らしていく.初期相では適切なフィードバックをし,理解を促す.
正解 : (1),(3)
【解法の要点】
運動学習とは,訓練や練習を通して獲得される運動行動の変化で,状況に適した協調性が改善していく過程である.
【解説】
✕(1) 運動学習は感覚運動学習ともよばれ,運動中や運動の帰結から得られる固有感覚情報が必要である.
✕(2) 言語学習における記憶の消失は大きく,一方,運動学習の結果は,比較的永続する能力の変化をもたらす.
◯(3) 運動学習は,学習課題の類似性があるほど転移の影響は大きくなる.また教示情報とフィードバック情報の類似性が高いと自己の修正がしやすい.フィギュアスケートの選手がクラシックバレエを練習に取り入れたりするのはこのためである.
✕(4) 前の学習が後の学習を促進することを正の転移という.前の学習が後の学習を妨害することは負の転移である.
✕(5) 課題の内容によるが,一般に覚醒レベルとパフォーマンスの関係は逆U字曲線に表され,パフォーマンスが最もよくなる覚醒レベルの「至適覚醒水準」が存在するといわれている.すなわち覚醒レベルが上昇するとパフォーマンスの向上をもたらすが,覚醒レベルが高すぎるとパフォーマンスは低下する.
正解 : (3)
【解法の要点】
手続き記憶とは代表的な非陳述記憶の一つである.手続き記憶は,自転車の乗り方などに代表される,いわば「体で覚える」記憶である.手続き記憶に変換される段階とは,反復練習による技能の習熟が相当する.
【解説】
✕(1),(2) 教示や提示と説明の段階では本人が動作をしておらず,手続き記憶には変換されていない.
✕(3) 試行錯誤の段階では本人は動作を始めているが,不慣れであり,また誤った動作も含んでいるため,手続き記憶にはまだ変換されていない.
◯(4) 解法の要点 参照.
✕(5) 実際に実践の段階ではすでに変換されている.
正解 : (4)
【解法の要点】
運動学習に対する理解を問う問題である.運動学習とは,訓練や練習を通して獲得される運動行動の変化で,状況に適した協調性が改善していく過程である.
【解説】
✕(1) 野球のスウィングは,1回行うのに明確な始まりと終わりがある不連続的(離散的)スキル(クローズドスキル)である.連続的スキル(オープンスキル)は明らかな始まりと終わりがないものをいい,自動車の運転などが例である.
✕(2) 課題の内容によるが,一般に覚醒度とパフォーマンスの関係は逆U字曲線に表され,覚醒度が上昇するとパフォーマンスの向上をもたらすが,覚醒度が高すぎるとパフォーマンスは低下する.
✕(3) 注意の集中は,運動学習が進むにつれて徐々に必要なくなってくる.
✕(4) 以前行った学習が後に行う学習に影響を与えることを,学習の転移という.前の学習が後の学習を促進することを正の転移(例:ゆっくりした歩行練習後に速い歩行が改善した),前の学習が後の学習を後退させることを負の転移という.
◯(5) 頻回に与えられるフィードバックは,運動反応の過剰修正を引き起こし,学習者のフィードバックへの依存を招くため,学習が形成されにくくなる.学習がある程度進むと,自己の感覚情報を利用し,結果の知識(KR)がなくても自己修正できるようになる.
正解 : (5)
【解法の要点】
運動学習の方法について問われている.ある一連の動作の中で,最初から最後まで通して練習する方法を全体練習といい,ある一部分だけを練習する方法は部分練習に該当する.
【解説】
✕(1) 恒常練習とは,一連の動作の流れを繰り返し練習することである.
✕(2) 多様練習とは,一連の動作を多様な方法で練習することである.
◯(3) 車椅子からベッドに移乗するという一連の動作の中で離殿のみを繰り返す練習法について問われており,部分練習に該当する.
✕(4) 分散練習とは,休憩時間を挟みながら時間・回数を分散させて行う練習法である.
✕(5) ランダム練習とは,複数のスキルを交ぜて無作為に練習する方法である.
正解 : (3)