【解法の要点】
本問では,問題文の評価結果を解釈して適切な作業を選択する必要がある.近年,高次脳機能障害の検査法に関しては,評価項目や解釈などのより具体的な内容が問われるようになってきているため,カットオフ値や各項目の結果の解釈も確認しておくとよい.本症例は,WAIS-Ⅲの言語性IQと全検査IQ,TMT検査結果から,全般的な知能の低下,言語能力の低下,注意障害が疑われる.一方でADL動作や日常生活レベルでの記憶,視覚でとらえた情報を処理する能力は保たれているため,これらの能力に見合った課題となるものを選択できればよい.
【解説】
✕1 WAIS-Ⅲの言語性IQが76(境界域)であり,言語理解の低下や聞いたことを記憶できない可能性がある.
✕2 企画書を作成するためには,一般的な知識や言語理解が必須である.これらの能力指標はWAIS-Ⅲの言語性IQに含まれており,検査の結果から企画書の作成は難しいと考えられる.
◯3 FIM,WAIS-Ⅲの動作性IQ,RBMTの結果から,日常生活の場面に近く,目で見て判断できる課題として単純作業が適しており,書類の片付けは適切である.
✕4 WAIS-ⅢやTMT検査結果から,注意障害や言語能力の低下があるため,会議の要約報告は難しい.
✕5 WAIS-Ⅲの言語性IQには計算する能力も含まれており,会計処理は困難である.
正解 : (3)
【解法の要点】
症状より前頭葉の障害を疑う.前頭葉が損傷されると,知能低下,記憶・計算の障害,ワーキングメモリーの低下,見当識障害,注意障害,遂行機能障害,人格変化,感情障害などが症状としてみられる.本症例では,見当識障害,遂行機能障害,記憶障害,社会行動障害, 注意障害がみられ,これらに配慮した指導が求められる.
【解説】
◯1 注意障害がみられるので,気が散らないような静かな環境が適している.
✕2 遂行機能障害がみられるので,毎日課題が変わると更に混乱しやすくなる.
✕3 記憶障害がみられるので,担当者が変わると覚えられない.
✕4,5 社会行動障害によって感情のコントロールが難しくなっているので,繰り返し注意を与えると易怒性・脱抑制を助長するおそれがある.また対人技能も拙劣になっていることが考えられ,現時点での集団でのレクリエーション活動はふさわしくない.
正解 : (1)
【解法の要点】
外傷性脳障害の回復期に対する作業療法の問題である. 前頭葉が障害されると,思考・判断能力低下,遂行機能障害,発動性低下,記憶障害,ワーキングメモリーの低下,見当識障害,注意障害,人格変化,感情障害(易怒性・脱抑制)などが症状としてみられる.本症例では遂行機能障害や注意障害がみられ,これらに配慮した指導が求められる.
【解説】
✕1 現段階で職場を訪問させる必要性は低い.
✕2 企図振戦があり,包丁を持つのは危険である.
◯3 遂行機能障害があるため,作業工程リストをつくらせることで,計画の立て方を一緒に考え,手順通りに作業を遂行・継続していくことが可能になる.
✕4 注意障害によりラジオに意識がとられ,注意がそれてしまう.集中できる環境調整が必要である.
✕5 感情障害を助長させる.
正解 : (3)
【解法の要点】
外傷性脳損傷は前頭葉・側頭葉が障害されやすい.このため身体機能が回復しても神経心理学的後遺症を残すことが多い.本症例も易怒性,病識の欠如がみられており,前頭葉症状が残存していると考えられる.病識が欠如している状態であるため,言動に対する本人の気づきや理解を求めることは難しく,どのような場面や周囲からの刺激が言動を誘発するか注意深く観察して対策を講じる必要がある.
【解説】
✕1~3 セルフモニタリング能力が低下しており,他者からの注意は受け入れられず,かえって怒りを誘発する可能性がある.
◯4 怒りが誘発されるパターンを把握し,うまく作業療法を行えるように介入する必要がある.
✕5 器質的な障害が原因で病識が欠如しているため,理解が得られるまで説明するのは不可能である.
正解 : (4)