【解法の要点】
うつ病の精神療法として認知行動療法がある.今回示されているのは「7つのコラム法」とよばれ,7つの項目を記載・検討することで認知の再構成を図るものである.コラム法の具体的な内容について理解し,その他の選択肢についても知識を深めるとよい.
【解説】
◯1 コラム法は,嫌な感情が起こったときの状況,気分,自動思考などを表(コラム)に記述し,それらを改めるような思考を促すものである.
✕2 自己教示法は認知行動療法の一つであり,恐怖やネガティブな感情が湧出した際に,実際に声を出して,あるいは心の中で「リラックスしよう」「心配ない」などの言葉を自分自身にかけ,自らの言葉で教示を与え,それが刺激となって自らの行動を変容させる方法である.
✕3 行動活性化法は行動療法の一つであり,抗うつ効果のある行動を起こさせることで抑うつ状態を改善しようとするものである.
✕4 ポジティブ日誌は,ポジティブなことを毎日思い出して記載する方法である.その効果について統計的に統制が取れた研究があるかどうかは不明だが,少しずつバリエーションがあるようである.いずれにしても問題文に示された表は使わない.
✕5 アサーション(assertion)には「主張」という意味がある.アサーショントレーニングは,自分も相手も不快にならないような率直な自己表現や相手とのコミュニケーションを目指すものである.
正解 : (1)
【解法の要点】
うつ病患者への対応を問う基本問題である.指導内容や禁忌事項を再確認しておく.
【解説】
✕1 うつ病患者は頑張りたいのに頑張れない点に苦痛を感じているため,励ましや積極性を促すことによってますます患者を追い込みかねない.
✕2 希死念慮の確認は必ず行わなければならない.希死念慮を抱いている場合には,具体的な手段を考えているのかを確認し,絶対に自殺をしないことを約束させる.治療者は「自殺を考えるほどつらいのですね」などと共感的な態度をとるように心がけるべきである.
◯3 うつ病患者に積極的に説明するべき事項の一つとして,調子が悪いのは病気のせいであり,治療を行えば必ず改善することが挙げられる.
✕4 心構えに問題があるとすると,患者の自責感を高め,患者を追い詰めることになりかねないため不適切である.
✕5 うつ病の急性期では判断力が低下しているため,重要な事への決定は先延ばしにすることを指導する.
正解 : (3)
50歳の男性.妻と二人暮らし.1年前に支店長に昇進してから仕事量が増え,持ち前の几帳面さと責任感から人一倍多くの仕事をこなしていた.半年前に本社から計画通りの業績が出ていないことを指摘され,それ以来仕事が頭から離れなくなり,休日も出勤して仕事をしていた.2ヵ月前から気分が沈んで夜も眠れなくなり,1ヵ月前からは仕事の能率は極端に低下し,部下たちへの指揮も滞りがちとなった.ある朝,「自分のせいで会社が潰れる,会社を辞めたい,もう死んで楽になりたい」と繰り返しつぶやいて布団にうずくまっていた.心配した妻が本人を連れて精神科病院を受診し,同日入院となった.入院後1週間が経過した時に気分を聞くと,返答までに長い時間がかかり,小さな声で「そうですねえ」と答えるのみであった.作業療法士の対応として適切なのはどれか.
- (1)退職を勧める.
- (2)気晴らしを勧める.
- (3)十分な休息を勧める.
- (4)自信回復のために激励する.
- (5)集団認知行動療法を導入する.
【解法の要点】
抑うつ,希死念慮,思考制止(応答に時間がかる)などがみられる.うつ病の急性期であり,患者への基本的な指導内容や禁忌事項,病期に応じた作業療法を確認する.うつ病患者に積極的に説明するべき事項としては,①調子が悪いのは病気のせいであり,治療を行えば必ず改善すること,②重要事項の判断・決定は先延ばしにすること,③自殺しないように約束してもらうことなどが挙げられる.
【解説】
✕1 うつ病の急性期は判断力が低下しているため,重要事項の決定は先延ばしにすることを指導する.
✕2 うつ病は気分転換では改善しない.無理な気晴らしは逆効果である.
◯3 うつ病の治療で最も重要なことは,十分な休養をとることであり,これをしっかりと説明する必要がある.
✕4 うつ病患者は頑張りたいのに頑張れない点に苦痛を感じているため,激励や積極性を促すことはますます患者を追い込むことになる.
✕5 認知行動療法はうつ病に適切ではあるが,入院1週間経過の急性期では負荷が大きい.また,回復期に入った場合でも,最近では集団では行わず,治療者と1対1で行うことも多い.
正解 : (3)
【解法の要点】
職場での昇進によるストレス増大を原因として抑うつ状態となっており,朝方増悪し,夕方軽快することからうつ病が疑われる.うつ病でみられる特徴や,うつ病になりやすい病前性格などを理解しておく.
【解説】
✕1 「迂遠」についての説明である.老化,脳器質障害(てんかんなど)でみられる.
◯2 うつ病の病前性格として,他人からの依頼を断われず,多くの仕事を抱え込む傾向がある.
✕3 うつ病の患者は早朝や午前中に抑うつ気分が強く,早朝から不要な電話を友人にかけることはない.躁状態では早朝から不必要に電話をかけることはある.
✕4 他人の評価を気にしたり,他人の期待に応えようとしたりするあまりに,無理をしてしまうことが多い.
✕5 不要なものを多く買い込むのは躁状態にみられる.
正解 : (2)
【解法の要点】
この患者は症状が軽快し,病棟内ADLはほぼ自立しているので作業療法が導入された.初期評価は,入院の原因となった症状の回復具合と生活リズムができているかが中心となる.
【解説】
✕1 調理については社会復帰の際に評価する必要はあるが,急性期を終えたばかりの時期に優先して評価するものではない.
✕2 疲労感を尋ねることは,患者に無理をさせないためにも必要ではあるが,頻繁に聞く必要はなく,不安を助長しかねない.
✕3 裁縫については,社会復帰の際に評価する必要はあるが,現段階では本人が期待する程度にはできずに自信を失うおそれがあるため,時期尚早である.
✕4 集団活動は負担が大きく,作業療法導入時の初期評価には適さない.他者とは無理のない交流を促す程度に留める.
◯5 作業療法以外の日中の過ごし方の情報を得ることは,回復状態を把握し作業療法の調整を図るための参考になる.
正解 : (5)