【解法の要点】
アルコール依存症(アルコール使用症,DSM-5-TR)に対する全般的な理解が必要な設問である.心理教育や,合併しやすい症状に対する治療について確認しておく.
【解説】
✕1 抗酒薬は,アルコールと併用すると激しい二日酔いのような症状が出る薬である.断酒薬として用いられるが治療の中心とはならない.
✕2 脳波検査は必須ではない.
◯3 共依存とは,患者も家族もお互いに相手に依存している状態をいう.家族は「ダメな」患者に過度に関わることで自分自身の存在価値を見出していることが多いため働きかけは必要である.
◯4 心理教育,内省などによって治療への動機づけを行いながら,仲間づくりや断酒会などの自助グループへの参加,生活設計の立て直しを行っていく.
✕5 身体合併症の評価・治療は,依存症の改善後ではなく初期治療として行われる.
正解 : (3),(4)
【解法の要点】
アルコール依存症患者の治療の流れを理解し,そのうえで,作業療法で介入する場合のポイントを押さえておく.アルコール依存症患者は,不規則な生活や低栄養による体力の低下,長年の飲酒による合併症を来している可能性がある.
【解説】
◯1 酒害に対する正しい知識を身につけることは,アルコール依存症からの回復につながる.
◯2 退薬症候群(=離脱症候群)では,自律神経症状に加え,幻視や幻覚が表れ不穏状態となることもあるため,遷延状態の把握は重要である.
◯3 患者の家族は精神的に疲弊していることが多く,家族への健康支援の視点をもつことは重要である.家族が病気と治療の正しい知識を学ぶとともに,家族への心のケアも必要である.
✕4 アルコール依存症患者の初期治療では,身体的治療,離脱症状の管理と治療が行われる.飲酒問題を否認せずに本人が受け止め,治療の継続を支援することが重要であるが,アルコール依存の自覚がない初期に介入しても,神経を逆なでするばかりで治療には逆効果である.
◯5 病気による過剰な言動に対しては,相手にせず,振り回されないようにすることが大切である.正常な部分と病気による部分を区別して,対応を見極めることが必要である.回復初期にこの過剰な言動に治療者や家族が振り回されると,患者は頑張りすぎてしまい,それが続かなくなった場合に無力感が出現し,再飲酒の可能性を高めることになる.
正解 : (4)
【解法の要点】
アルコール依存症に合併しやすい症状としては,離脱症状,アルコール幻覚症,アルコール性妄想障害(アルコール性嫉妬妄想),健忘症候群(Korsakoff症候群),残遺性・遅発性精神病障害などがある.それぞれの症状とその治療をおさえておこう.
【解説】
✕1 幻覚に対しては,抗精神病薬(=統合失調症治療薬)が使用される.
✕2 Wernicke脳症は,様々な程度の意識障害,眼球運動障害,小脳失調を特徴とし,ビタミンB1の欠乏が原因である.
◯3 断酒会は,アルコール依存症者が集まり,体験の共有や苦しみを分かち合うなどして依存症を克服することを目的とした取り組みであり,再飲酒の予防に有効である.
✕4 抗酒薬は,飲酒時の嫌悪感を強めて断酒を維持させるのに用いられる.離脱症状である振戦せん妄の改善効果はない.
✕5 人格変化はアルコールの精神的依存からくるものである.修正型電気けいれん療法(m-ECT)は,うつ病の混迷状態や強度の希死念慮を抱いている場合,緊張病状態などに用いられる.
正解 : (3)
【解法の要点】
アルコール依存症の治療で最も重要なことは,節酒ではなく断酒である.患者が断酒し,社会復帰できるような作業療法を行っていく.
【解説】
✕1 アルコール依存症の治療では,意思の弱さを指摘することではなく,自分の意思だけでは断酒できないことを認められるように支援することが重要である.
✕2 アルコールへの精神依存・身体依存を断ち切るため,断酒する必要がある.
✕3 自身の現在の状況に向き合うため,飲酒状況は自分で把握し,医療者に伝える必要がある.
✕4 体力回復を自身の課題として取り組む必要がある.
◯5 Alcoholic Anonymous〈A.A〉はアルコール依存症の世界的な自助グループである.アルコール依存症の患者は,単独で飲酒することが難しく,自助グループへの参加や集団との関わりにより再発を防止できる.メンバーが共通の話題や目標をもち,互いに支え合うことで問題に向かうことができる.
正解 : (5)
【解法の要点】
アルコール依存症患者の作業療法導入時に行う作業療法についての問題である.よく出題されるので確実に理解をしておく.
【解説】
✕1 本人の入院前には家族も精神的に疲弊していることが多く,家族関係の改善は作業療法の導入期には時期尚早である.
◯2 入院前の不規則な生活や低栄養により体力が低下しているので,この時期には基礎体力の回復が課題となる.
✕3 対人技能の獲得は,回復期が終了して社会復帰を目指す時期に行う.導入期には時期尚早である.
✕4 自助グループへの参加は,社会復帰を目指す時期に行い,導入期には行わない.
✕5 ストレス対処行動の獲得は,社会復帰を目指す時期に行う.導入期には時期尚早である.
正解 : (2)
【解法の要点】
Korsakoff症候群は,ビタミンB1の欠乏による脳障害で,短期記憶の障害が顕著である.症状として,健忘,記銘力低下,失見当識,作話がある.Wernicke脳症から移行するものが多い.
【解説】
✕1 観念奔逸とは,次々に考えが浮かび,思い付きで思考の方向がそれてしまうため,思考が全体としてまとまらない状態をいう.躁状態でみられる.
✕2 体感幻覚とは,「脳が溶けている」「腸が腐っている」など,通常は意識されない身体の部分に関する幻覚であり,統合失調症に認められる.
✕3 不安発作(パニック発作)は,動悸,胸痛,窒息感,めまいなど予知できない発作が起こる状態である.不安神経症で認められる.
◯4 解法の要点 参照.
✕5 フラッシュバックは,実際に死に直面するような状況や大災害などを体験した人が,その出来事による心的外傷を再体験することである.PTSD(外傷後ストレス障害)でみられる.
正解 : (4)